思考を休めるな

 

「OSはすぐアップデートするの。新しい方が良いじゃん」という恋人の声を聞いて以来、自室の地下に密かに監禁牢を作り始めている。

 

好きなアーティストは確かにいる。けれども、作品の中でどれが好きかと問われると上手く答えられないことが多い。そして気まずい時間を潰すために咄嗟に出る答えは、決まって新曲となる。そのアーティスト「らしい」作品であれば正当な理由になり得るだろうが、「らしくない」実験的な作品にさえ、むしろ実験的だからこそという理由で好感を持ってしまう。 最新作ならば何でも良いと思っているつもりは無いけれど、その適当な感情を否定しきる程強い芯はおそらくない。小学生の雑誌の付録だった、ぐにゃぐにゃ曲がるカラフルな鉛筆が懐かしい。

 

2匹のハリネズミが適度な距離感を探り当てて地面に引いたしるしは、お互いを知れば知るほどだんだん薄くなり、終いには見えなくなってしまう。

 

常に笑顔でいろ、短所より長所を伸ばせ、リーダーであれ、ポジティブに生きよ、思い切って海外旅行に1人で行ってみよ、高層ビルから地上を見下ろせ……。「魅力的な人になりたい」と思った時、適当なフレーズを検索欄に打ち込むだけで様々な自己啓発系サイトが出てくる時代だ。凡庸な議論をすれば、我々が目指す「魅力」は画一化され、平均的な像が理想として提示される。魅力的になるための何もかもがすぐさま明らかになってしまうようなこんな物騒な時代において、いやむしろこんな時代だからこそ、本当に魅力的であることを目指すのであればどうすべきなのか。

 

「誰も作り上げたことのない色を描け」というお告げに対して、ある画家は目の前のキャンバスに様々な黒を塗りたくることで応えようと試みたが、あまりに黒くなり過ぎて、光だけでなく画家をも吸収してしまった。