免罪符


世界を襲ってきた謎の生命体Xから人々を守るため、自分のみに操縦が可能なモビルスーツを身にまとい戦闘区域に出て行ったものの不慮の事故で民間人の不必要な犠牲を出してしまったヒーローが人々に詰め寄られているが、「悪気はなかった」の一点張りだ。

 


結婚して半年になる夫は毎晩遅くまで飲んでいて酔っ払った勢いで私を殴ってくるのだけれど、それに対して抗議の言葉を口にしても、「これも愛だよ」という言葉で毎回丸め込まれてしまう。

 


こっちは両足を骨折したんだぞ。落とし穴に落としておいて、「ドッキリでした」で済まされると思うなよ。

 


二枚目の整体師がいると言って高校時代の男友達が勧めてくれた整体院に初めて来たは良いものの、内股を執拗に触られるのが気になり、彼に尋ねても「医療行為ですから」と微笑むだけだが、ジリジリと彼の手が上がってくるのが感じられる。

 


初老の男が、渋谷の歩道にポイ捨てされた煙草の吸い殻を集めて作り上げた塊を見せつけているが、口角泡を飛ばして叫ぶ彼の言葉を聞くには、「これもアートだ」とのことだ。

 


散々人の浮気を疑っておいて潔白が証明されたら「いまのなし」って、お前の頭はいったいどうなってるんだ。

 


年越しは炬燵で家族団欒と決まっているのに、強情な彼氏に「平成最後の正月だから」と言われ、氷点下の真夜中、除夜の鐘を衝く行列の最後尾に並んでいる。

 


人の生き方に難癖をつけておきながらも子どもの扶養に頼ろうとする人間がいて、「親子だから」という言葉を吐いている。