後輩に連れられて初ディズニーをキメた23歳男性の体験談


「ディズニー行ってみませんか?」

ここから始まるのは、後輩女子の何気ない一言から始まるストーリーである。

 

 

基本的に、福岡の田舎で育った人間にとって、「でぃずにー」という響きはお昼どきの情報番組以外ではほとんど馴染みがない。もちろん行ってみたいという気持ちがないわけではなかった。けれどもそれは「1回くらい経験として」行ってみたいというものであって、例えば大学生が1回ボルダリングに行ってみるのとほとんど変わらない感覚だったのである。

だから、そんな言葉が目の前の後輩から突然聞こえてくると、さすがのぼくも戸惑ってしまうしかない。大学進学と同時に東京に引っ越してきてもう5年になるわけだが、未だに気持ちは炭鉱の町で育った純粋な少年のまま(23歳)なのである。

さて、話の流れでディズニーに行くことになったのだけれど、同時にいくつかの心配事も頭に去来した。1つ目には待ち時間の問題がある。5分待ち以上の行列には並ばず、頼んだ料理が10分以上出てこなかったらキレて退店していた父親ほどではないにしても、ぼく自身そこまで行列待ちが好きというわけではない。ディズニーといえば長時間並ぶのが当たり前みたいな印象があったので、その点はそこそこネックだった。とはいえ、何人かでおしゃべりしながら待っているのもまあ悪くないかと思い直した。

とはいえ、もっと大きい究極的な心配事があった。お察しの通り、それは「カチューシャ」問題である。


荘子』に『泥中に尾を曳(引)く』という逸話がある。楚王に政界入りを打診された荘子が、「亀は高貴な占いに用いられるために殺されて祭壇の上で重宝されるより、泥の中で尾を引きずってでも生きていた方が良かった」と返答し、政界入りの誘いを固辞する故事である。束縛された高貴な暮らしより、貧しくとも自由にのんびり生活を謳歌したいという荘子の願いが込められている。

想像して欲しい。顔が良いのならばともかく、こんなのでカチューシャをつけて歩き回るのは、日本の四大公害に肩を並べるレベルなのではないか。カチューシャをつけた後、寒い空気を取り繕うとする後輩に「似合ってますよ」と震え声で言われるより、ありのままでのんびりディズニーを謳歌したいという自分の願いがそこにあった。

いやむしろ、こちらにとって利が一切合切存在しないという点では『尾を泥中に曳く』よりもたちが悪く、適切なのは『市中引き回しの上、打ち首の刑』というフレーズなのではないか。更に言えば、カチューシャを頭につけた自分の写真が後輩全体のLINEグループなんかで拡散された場合を鑑みると、これは現代版『市中引き回しの上、打ち首の上、晒し首の刑』とでもいうべき凄惨な拷問である。ふと、小学校の人権教育での「人権とは、一人一人が人間らしく生きていくために、生まれながらにしてもっている大切な権利で——」という先生のありがたいお言葉が思い出される。ミニーのカチューシャを付けた自分の写真が流出したとき、人間は人権を保ち続けていられるのだろうか。


とそんなことを考えていた時、後輩からもう一度声を掛けられた。

「ディズニーランドとシー、どっちが良いですか?」

脳天をぶん殴られるような、とはまさにこのことなのかもしれない。もちろんディズニーランドとディズニーシーの2つがあることは知っているけれど、こちとらそれらの違いがよく分かりません、という状態である。パチンコとパチスロの違いがよく分からないのに似ている。いや、パチンコとパチスロの違いなら分かるんだけど。

そのあと後輩2人から聞いた話を総合する限りでは、前者よりも後者の方が若干大人向けということらしい。大人なので(?)、ディズニーシーに行くことにして、大雑把に日程も決めた。後日、別に1人メンバーを追加して、結果4人で行くこととなった。

 

 

当日。

9時に舞浜集合というので、7時くらいに起きて諸々準備をしていた。「夢の国」にどれだけ吸われるのか分からなかったので、念のためと思って10万ほど持って行った。ちなみに前日は後輩にふざけたLINEを送っただけで、緊張して寝られないなどのトラブルもなく安心した。少なくとも、小学校の遠足よりは進歩しているらしい。

ガタゴトと電車に乗って舞浜に近づいた頃、新木場でキラキラしたのがごろごろ乗ってきて、心にもくもくと暗雲が立ち込めてきた。帰る頃には自分もこの女子高生になっているのでは……?と思ったけれど、そうなるんだったら悪くないのかもしれない、と思い直した。一回くらいはそういう人生を歩みたかったと常々思ってたんですよね。

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▲こういう先輩になってはいけない

 

舞浜で後輩たちと合流して、シーまで1kmないくらいの距離を歩いて行った。仲良く話している後輩3人に比べて自分の口数が心なしか少なかったのは初ディズニーへの緊張から来る武者震いであろうか、いや単に口下手なだけである。途中にある運営会社みたいなところに従業員らしき人たちがぞろぞろ入っていくのに笑ってしまった。もしかしたら違うのかもしれないけれど………。


なお肝心な入園してからの感想は「デカすぎる」と「何円かかってんだ」の2つしかない。なおこのどちらもディズニーに限る必要はなく、ドバイの高層マンションを見ても同じことを思うだろうし、東京タワーから真下を眺めても同じことが言えるし、あるいは奈良の大仏でも同じかもしれない。

あと入り口(エントランスと言え)で印象に残っているのは巨大な地球のモニュメントである。地球の中に地球があるのは壮大な入れ子構造だなと思い、学部3年の頃に発表したイメージ学の講義を思い出した。

 


さすがにもう少し気の利いたことを書いておかないとマズいのではないかという気がしてきたので、以下大まかな流れとそのコメントを記す(順番はうろ覚えなのでご了承ください)。

 

ニモ&フレンズ・シーライダー

ファストパスでセンター・オブ・ジ・アースを押さえた後の時間潰しで乗った記念すべき初アトラクションである。乗る前はいうても子供騙しでしょWとか思っていたのだけれど、空間の作り込みや五感をフルに刺激してくるギミックの連続に感動してしまい、閉園までこれに乗っていても良いのではないかと思ってしまった。ディズニーへのイメージがガラッと転換した瞬間である。

知らないタコが出て来たと思ったらニモの続編であるドリーに出演しているらしい。今度見てみようかな。


シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ

船に乗っているとのんびりストーリー展開してくれるタイプのアトラクションである。シンドバッドが冒険に出て色々あって街に帰ってきて讃えられる、という児童文学でお馴染みの展開だった気がする。10回くらいは連続で乗ってられるアトラクションだった。

余談ですが、なぜ王様は1人で旅に行かせがちなのだろうか(ドラクエなんかもそう)。少しくらい兵士が余ってそうなものだけれど。兵士の就活は売り手市場なのかな?あと「ヴォヤッジ」が絶妙にダサい。


センター・オブ・ジ・アース

初めて来たのならメインアトラクションは外せないでしょ、という後輩の素晴らしきご配慮、ファストパスを使って押さえてもらった。ファストパスを使うと長蛇の待機列を一気にショートカット出来て最高なんだよな、というのは小学生の時に付き添いで救急車に乗った時の感想と同じである。「赤信号を無視したのが楽しかった」と書いて怒られた記憶がある。

僭越ながら遊園地というもの自体に2〜3回しか行ったことがなく、そのうちの1回である「だざいふ遊園地」の話を最近福岡に旅行に行った後輩に話したところ、「ああ、あのデパートの屋上にありそうなやつですか」と返されて笑ってしまった。そういうわけでいわゆる絶叫マシンにもあまり乗ったことはなく、自分がそういうものに耐性があるのかないのかすら分からないのである。とはいえおそらく楽しめそうだという自信はあったし、そもそも2つも歳が離れた後輩の前では見栄を張るしかなかったのである。

楽しかったか楽しくなかったかと聞かれればめちゃくちゃ楽しかったけれど、RADWIMPSの歌詞「暗がりの中走る僕ら Yeah Yeah Yeah」とまでハイな気分にはならなかったというのが正直な感想だ。クライマックスの落下直前に「マジか…」と呟いたのを後輩にしっかり聞かれていてあとでちゃんとツッコまれた。


海底2万マイル

小型潜水艇に乗って海に沈んだ古代文明を調査するみたいなライド。途中小さなサーチライトを操作して外を調査するパートがあるのだけれど、デカいサーチライトだったら一瞬で調査が終わるのではないだろうか、と後輩と話した。


インディー・ジョーンズ®︎アドベンチャークリスタルスカルの魔宮

これもファストパスを取ってもらった。

センター・オブ・ジ・アースの時はどうしてもバーを握る腕に力を込め過ぎたので、その反省を活かし、下腹部を膨らませてシートベルトで固定したら(有気無体)、かなり安定して乗れたような感覚があった。インディー・ジョーンズもなかなか大変な仕事をしているなと思った。人生ゲームで転職出来たとしても、パスしてフリーターを選ぶかな。


(昼食)カフェ・ポルトフィーノ

美味しそうな料理が載ったパンフレットを見ながら「普段食べないチキンでも食べるか」みたいな流れで決まった。それこそディズニー映画で出てきそうなチキンを注文した。獣医学専修の後輩女子が「これは〇〇骨で……」とか言いながらナイフとフォークで解剖していくのが好きすぎた。ある意味この日1日で一番面白かったかもしれない。


フランダーのフライングフィッシュコースター

一番特筆すべきことのないコースターである(が、このくらいがなんやかんや一番好きかもしれない)。フランダーの顔が人を舐めてるようにしか見えなくて難儀した。


ブローフィッシュ・バルーンレース

一言で言えばゴンドラ式メリーゴーランド?

コンセプトとしては「ブローフィッシュ(フグ)たちのレース」らしいのだが、それだけ聞くと競馬じゃねえかと思ってしまうのがいかにもカス大学生という感じである。

待機列でフジツボのモニュメントを見ながら「丸が3つあればトポロジー的には全て隠れミッキー」という話をしたら怒られた。


マーメイドラグーンシアター

「リトル・マーメイド」に出てくるアリエルをモチーフにしたミュージカルショーである。

スケールも大きいし演出も素晴らしい中、やはり特筆すべきはワイヤーで吊り下げられた役者さん(じゃなくてアリエル)が空中を飛び回るワイヤーアクションが面白かった。バク宙の方向に回転するばかりで前宙方向の回転はほとんどなかったように感じるけどバランスを取るのが相当難しいんだろうか、とどうでもいいことが気になった。ミュージカルの最後にアリエルがワイヤーで引っ張り上げられるのを、横の女性2人組が「収納されてるW」と笑い合っていて、同じことを思っていた自分の正当性が保証されたように感じた。

「先輩もあれ(アリエル役)出来ると思います!」って言われたんだけど、おっさんが飛び回るのを見るのは地獄じゃないでしょうか?


ソアリン:ファンタスティック・フライト

最新のアトラクションということで3時間待ち。ニモ味のチュロス、じゃないニモ色のオレンジ味のチュロスを食べながらひたすら待った。後輩が寿司ロールを食べながら「これニモのアトラクションの近くで食べるの嫌味じゃない?」みたいなことを話していたのがちょっとツボに入った。

ひょっとするとネタバレが嫌な人がいるかもしれないので詳細は秘すけれど、これだけ並ぶ人がいるのも納得の出来栄えだった。家に1台欲しいなあ。疲れた時に20分くらい乗っていたい。

 

 

初のディズニー体験は概ね以上である。

「夢の国」というフレーズは若干バカにしていた節があるけれど、間違いなく行ってよかったと断言出来る(もちろん付き合ってくれた後輩たちのおかげですが)。シーじゃない方(ほら、「シー」とか言ってる時点でちょっと玄人感出てませんか?W)に行くのも悪くないかなと思っている(ので、気が向いたら誘ってみてください。別に興味があるのは、もうちょっと激しい絶叫マシンとかバンジー系、さらに別方面では寝台列車の旅、さらにさらに別方面では宗教社会学)。

 


なおカチューシャは頑張って首元までが限界だった。