東京 PM9:00
渋谷のサンマルクカフェで、ブレンドコーヒーのカップとレシートを受け取る。後輩の待つ席に着く。
「インスタグラムってどう思います?」
うーん。マノヴィッチの邦訳『インスタグラムと現代視覚文化論』は読もうと思ったきりで読んでないな。一応アカウントは持ってるけどほとんど見ないし。まあでも、写真のレイアウトはマガジンっぽいよね。カタログを見るのは好きなんだけど。
「良い印象は持ってないかなあ」
手の中でレシートが3つ折りになる。
「院出て何するかとか考えてますか?」
レシートを折る向きが90°変わる。ついに9分の1サイズになる。
そう。将来。これですよ。つい最近帰省して会った友達とも話題になったやつ。この先どうやって生きていけばいいんだろうね? というか、どうやったら生きていけるんだ?
「何も決まってないね、もう25歳まで何も起きなかったら終わりでいいんじゃない、と思ってたこともあるけど」
「え、25は早くないですか?私は50で」
「私はずっと生きてたい方です」
まあ、さすがに今は丸くなっちゃったので。でも……
「実際、経済的にもそうだけど、精神的な問題も大きいんだよな」
折り畳んでいたレシートを開く。どうやら考えに詰まると、手の中をもてあそんでしまうらしい。
縦横2本ずつ、4本の折れ線がついている。
「昔は全然人に興味が無くて」
まあ、そうだろうね。悪いけど。
「『かなり好き』『好き』『興味ない』人の割合が1:2:7くらいだったんですけど」
「ええ」
レシートに斜めの線が2本入る。
「最近は2:3:5くらいになったんですよ」
「あ〜、いいことじゃん」
……どの口が言ってるんだろう? 斜めの線に沿って折り直すと、小さな紙飛行機が出来上がった。50cmくらいなら飛ぶかもしれない。
「先輩、『興味ない』に当てはまる人多そうですけどね」
紙飛行機が空のコーヒーカップに突き刺さる。
「そろそろ時間じゃない? 行きますか」