はち切れそうな思いを紡げ

部活人生最後の全日本大会で優勝した。言ってしまえばそれだけのことだけれど、ぼく個人のストーリーとしては最高の幕引きを迎えることが出来たように思う。あ、まだ引退させてもらえないんですが。

 

 

思い返せば、この部活に入ろうと思ったきっかけは新歓PVの展開競技だった。合格発表直後に色んな部活やサークルを検索しながら、一番に惹かれたのがこの部活で、そしてこの競技だった。(参考動画はこちら:https://youtu.be/ZKpIDXyeDq0 )

といっても、1年生がパッと出来るような競技ではない。入部してからは基本的な動きすら精一杯だし、そもそも40人近くいる上級生を出し抜いて6人の出場者枠を手に入れることは、下級生には到底不可能なことなのである。そういうわけで、2年生まではのんびり過ごした。2年間を数行で語るなよと思うけど。


状況が変わったのは2017年1月、代替わりがあって部内では上から2番目の学年(学参)になった時のことである。この年は4年に1回の世界大会が開かれる年だった。そしてそのための日本代表選考会に、敗者復活特別枠として東大からもチームを組んで参加出来ることになったのである。

しかし選考会を勝ち上がり日本代表の座に内定するためには、相当に大きい壁が立ちはだかっていた。2010年から2016年までの7年間もの間、全日本の展開競技は山梨と新潟という二大巨頭が立ちはだかっていて、この2チームが完全に時代を作ってしまっていた。昨年度優勝チームの山梨は既に日本代表が内定しており、世界大会に出場出来る残り1チームの枠を、新潟と東大を含めた4チームで争うことになっていたからである。

そのための展開メンバーに運良く選ばれ、4年生(学肆)の先輩4人+ぼくを含めた学参2人の新チームで打倒新潟を目指すことになった。しかし選考会は3月頭に行われるため、練習期間はたったの2ヶ月しかなかった。その2ヶ月の練習は端的に言って地獄だった。展開初心者の状態で自分のキャパシティを大きく超えるような難易度の筋を通さねばならなかった上、ほぼ毎日強度の高い練習が行われた。迫る期限の中で気持ちも身体も限界を迎え、チーム全体としても慢性的な怪我や閉塞感が漂っていた。


結果的に、ぼくたち東大チームは選考会を勝ち抜き、世界大会への切符を手にすることが出来た。日本代表の刺繍が入った道着ももらったけれど、それは同時に、世界大会が行われる7月までも同様のつらさが続くことを意味していた。

そして世界大会当日を迎え、ぼくらは山梨チームに敗北した。完敗だった。銀色のメダルを貰いながらも、完全に煮え切らない気持ちがそこにあった。ぼくらは次なる目標として打倒山梨を掲げ、11月の全日本大会に照準を合わせることにした。東大の男子展開チームは全国学生大会こそ優勝常連校なものの、全日本大会では最高でも3位入賞止まりであって、そこでの優勝はぼくらの、そして東大の悲願でもあった。

バク宙を側宙で飛び越える激しい上下交差などで筋は大きく難易度が上がり、そして10ヶ月間激しく動き続けてきたこともあり、当然の如く衝突事故や大きな怪我のリスクも増えた。それでもぼくらはその悲願に向かって、とにかく走り続けた。主役の上を側宙で飛び越えた回数は、1000をゆうに超えていたと思う。


しかし、全日本に山梨は出場しなかった。山梨へのリベンジを目論んでいたぼくらは逆に新潟に返り討ちにされ、2017年の全てが終わった。1年間共に戦ってきた先輩方との思いは、そして全日本優勝の約束は、一緒にチームメンバーとしてやってきた同期と共に、2018年に持ち越しになってしまった。学肆の先輩方は卒部(引退)なさって、ついにぼくらが新学肆の新体制が始まった。

 

1500字かけたここまででやっと、去年の話。今年のストーリーを始める上での、いわばエピソード0である。

 

 

2018年は世界大会やら何やらがない平穏な年だったので、例年通り5月末に展開メンバーが決定し動き始めることになった。が、今年最初で最大の懸念は主役決めにあった。

展開競技は1人の主役が5人の脇役をカンフー映画の殺陣のようになぎ倒していく競技であり、それ故に主役の能力が最重要視される。通常のチームでは能力がずば抜けて高い者が主役を務め、その他は脇役として自らの特徴を活かしつつ、主役を引き立てねばならない。通常、主役は最上級生が務める。それは実技が最も優れていることもあり、そして学肆としてのプライドも理由にある。実際、去年まではほぼ全て、東大では主役は学肆が務め続けていた。

しかし長い話し合いの末、今年は学参を主役に据えることになった。もちろん主役が飛び抜けた才能を持っていたこともあるし、逆に学肆が頼りなかったからかもしれない。とにかく東大としては前例がない事だが、全日本で優勝するためのベストな布陣を敷くために、ぼくらはそういう選択をした。基本的に展開競技のクオリティは全て主役に依存するため、彼のプレッシャーや責任は相当に重いものとなってしまうが、それでもその重荷を、学肆が賭けている全ての思いを、たった1人の後輩に預けることにした。実技が上手く行かない時には練習の流れが悪くなるし、主役が怪我などで動けないとそもそも練習自体が成立しなくなってしまう。顔に出さないだけで、一脇役には想像もつかないほど本当に大変な半年間だったと思うけれど、それでも主役は相当な負担を跳ね返し続けた。

そして4年生であるぼくら自身が、主役に責任を押し付けてしまうことへの罪悪感で潰れそうになっていたのも事実。絶対に自分たちが勝たないといけないし、主役を勝たせてあげないといけない。でなければ、主役は本当に立ち直れなくなるんじゃないかと思った。

 

全日本大会決勝の舞台を細かく言葉にするのはやめにしよう。普段の大会では全く緊張しない自分が、畳に入る前に主役に「まあ普通通り行こう」と平常心を装って声を掛けつつ、実際は膝が震えていた。最初にやられる役のぼくは、3年半の全てを、たった12秒間の筋に賭けねばならなかった。一度筆をつけてしまうと取り返しのつかない習字紙のように、入場時に目の前に広がるコートの畳はあまりに白かった。点数が発表され優勝が決まった時、後輩の前では絶対に見せないと決めていた涙が流れてしまったのは、それだけ、去年の展開で共に戦って敗北した先輩方との思いも、今年一緒にやってくれた同期への恩も、学肆5人分の覚悟を背負わせてしまった主役への罪悪感も、そして何より自分自身の3年半も、全てがあまりに重かったからだと思う。

 

東大男子展開としての全日本初優勝、更に大会史上初の準MVPというおまけも付き、2018東大展開は文字通り伝説を作り上げることが出来た。お世話になっている先生方からも様々にありがたいお言葉を頂き、更には「感動した」とまで言って頂けた時、言葉にならない感情が溢れた。たった12秒でも、3年半の全てを確実に表現することの出来た12秒だった。

 

来年以降の後輩たちが今年を超える展開を作り上げるのは不可能に近いと思っている。それだけにぼくら15期は自信作を創り上げ、決勝の舞台で表現してしまった。しかし後輩たちには同じところまで登りつめて欲しいし、そして15期が残した大きな壁を超えて欲しい。そして願わくば、次の世界大会で、ぼくらが果たせなかったリベンジを果たして欲しい。積み重ねてきた人間にしか見えない景色があるのならば、その景色を見つめるのは自分でなくちゃ。